荒削りで瑞々しい野心を忘れてしまった大人達へ。斉藤めい初ワンマンライブレポート

多くの賞賛を集めなくても、誰かの心に届けばいい——。
そうやって歯をくいしばって、劣等感と向き合って、それでも自分を信じて、進むのをやめないあなたへ。

 
 
 

スターになれなかったとしても

 
「僕には強烈な個性はないので、きっとスタープレイヤーにはなれません。でも、誰もがスターを目指す必要はないと思うんです。地味で目立たなくても、着実に実力をつけ、少なくても信頼感で繋がれたファンがいる。そんなライターになれればいい。いや…、なれたら最高じゃないですか」
 
これは、知人のフリーライターの言葉だ。同じように自身のライターとしての将来を憂いていた私は、その言葉にどんなに救われたことか。
 
 
 
その言葉を思い出し、そしてくつがえされたのは、あるライブを見ている最中のことだった。
 
 
 
 

彼女の初ワンマン

 
「斉藤めい 初ワンマンライブ」
 
その看板は、高円寺駅から徒歩7分ほどの、小さな雑居ビルの3階にかけられていた。
 
 
 
彼女は遅咲きのシンガーソングライターだ。
現在32歳の私の、大学時代の後輩、ということだけここに記しておく。
 
新卒で就職した会社をやめ、夢だった音楽を始めたものの「まだ下手くそだから」とライブもせずに数年。「人前で演奏するのは怖い」と泣いていた彼女が初めてオリジナル曲をひっさげてライブに出演したのは、たった3年前のことだったか。
 
「勇気出せ! 場数踏め! 夢叶えるんだろ!」
と喝を入れていた私の存在感はいずこ、気づけば彼女は自分ひとりでぐんぐん進み、今では毎月10回以上もライブ出演する「アーティスト」になっていた。
 
 
 
会場に入ると、20畳ほどの小さな空間に、30人ほどの観客がひしめきあっていた。
 
開演時間が近づき、どんな風に登場するのか心待ちにしていると、なんの前触れもなく彼女が出てきて、観客席に来て「あ、どうも~」と挨拶しはじめた。
 
 
 
「登場、こんな感じなんだね」
と笑っていたのは、共通の友人とその恋人だ。
 
私は、彼女のライブを初めて見るという2人に「最初ちょっとびっくりすると思うけど楽しんで」と伝えた。
 
 
 
斉藤めいのライブは、ひと言で言うと「壊れている」。
 
始終挙動不審で落ち着きがない。MCはまとまりがない。歌いながら決めたポーズはかっこよくない。歌声がぶれる。突然絶叫が始まる。世界観がやばい。脳内ボーン! て感じだ。
 
彼女のライブを過去に見たことがある私は、今回も大枠はそんな感じだろうと思っていた。アーティストのライブを見にきたというよりも、荒削りだけど一生懸命な「親友」のライブを見に来た、という気分だった。
 
 
 
 

「壊れた」ライブ

 
ライブが始まると、思っていた通り、やっぱり動きは挙動不審で、MCはかっこよくなかった。セリフやポージングも、ロックシンガー然としているつもりなのかもしれないが、全然キマってない。
 
会場の空気が一気に「めいちゃん応援モード」に入った。
 
 
そんななか始まった一曲目は『今日が美しい』。
 

 
応援モードに入っていた我々は、さっそく肩透かしをくらうことになる。
 
キャッチーなメロディーから唐突に突入する、絶叫マシンガンリリック。彼女が叫ぶのは、中身のないカッコ良さや多数派の意見が正とされる世間に対する反抗だ。
 
 
 
二曲目の『不労所得』は、「器用な生き方」へのアイロニーを歌っていたかと思ったら突然宇宙に話が飛ぶシュールな歌詞と、身体を揺らさずにいられないクールなメロディに心を掴まれる。
 

 
その間も、彼女の奇天烈な動きやカッコつかないMCは変わらない。観客は、腹をかかえて笑ったり、鬼気迫る歌声に圧倒されたり、漫然と生きているこちらの心を見透かされるような歌詞にハッとしたりと大忙しだ。
 
そしてふと気づくのだ。
 
私たちは彼女のことを「笑っている」と思っているが、もしかしたらそれもまた彼女の計算の内かもしれない、ということに。
 
なぜならそれらがすべて、彼女の「本質に迫る」歌詞を際立たせているからだ。
 
 
 
世の中にはたくさんのバンドがあるだろう。彼女よりも売れているアーティストだって数えればきりがないくらいいるはずだ。
 
でも、ここまでダサさも未熟さもひっくるめて全部さらけだして、全力でぶつかってくるアーティストはどれだけいるだろうか。
 
クールでかっこいいあのバンドも、綺麗で可愛くて歌声が綺麗なあの人も、なんだか物足りない。
 
 
 
もっと全力でかかってこいよ!
 
 
 
私をもっとウズウズさせてくれよ!!
 
 
 
世の中に立ち向かう力をくれよ!!!!!
 
 
 
 
そんな気分になるんだ。
 
 
 
さっき「計算の内」といいう表現をしたが、彼女はそんなことまで計算できるタイプじゃないから、きっと天然でやってるんだろう。ただ、自分に嘘をつかないように生きているから、すべての要素が彼女の「本当」を輝かせる働きをしたんだと思う。
 
ただ、10年も親友やってる私だから言うよ。
あなたは強くなった。たった数年で驚くほどに。
 
 
 
 

君の歌はきっと流行らないだろうね

 

君の歌はきっと流行らないだろうね
それでもきっと
本当をつきつづけなきゃ
触れられない 誰かの心があるよ
本当をつきつづけてよ
時代おくれの あなたの本当を
(斉藤めい『時代おくれ』より一部抜粋)

 
 
芸術にはレベルがある。
 
そもそも自分の心には響かないもの。
その場だけの感動で終わってしまうもの。
受け止めた側の思想や行動を変えてしまうもの。
 
昨日の彼女のライブは、紛れもなく私の行動を変えた。だってこうしてブログを書いているんだから。
 
そして、少なくとも、私・私の夫・友人・友人の恋人、4人の気持ちや行動を変えている。
 

 
斉藤めいと面識がなかった、友人の恋人が感動していた様子を見て、友達の立場で見た価値だけではないんだということを確信できた。
 
 
 
「僕には強烈な個性はないので、きっとスタープレイヤーにはなれません。でも、誰もがスターを目指す必要はないと思うんです。地味で目立たなくても、着実に実力をつけ、少なくても信頼感で繋がれたファンがいる。そんなライターになれればいい。いや…、なれたら最高じゃないですか」
 
知人のライターはこう言った。
 
 
多くの人から注目されなくてもいい。たしかにそうだ。
 
たったひとりの誰かの心に届けばいい。それも本当だ。
 
 
でも彼女のライブを見て思ったのは、それが届いた「誰か」は、もっと多くの人に彼女のことを知ってほしいと思ってしまうものなんだってこと。
 
「誰かひとりの心に」と願って生まれたものは、「誰か」から「誰か」へと伝わっていくものなんだってこと。
 
それはとても不思議で、素敵なことのように感じた。
 
 
 
 

エピローグ

 
昔から、何か理不尽なことを言われても、ぐっと飲み込んで素直に受け入れる彼女を見てきた。でも、ある時、その目には小さな反抗の光が灯っていることに気づいた。
 
彼女は、刹那的で快楽主義の学生の友人たちのなかで、少しだけ「浮いて」いた。まっすぐすぎて嘘がつけない。上手に話を合わせることができない。
それゆえに下に見られたり、馬鹿にされることもあった。不器用だったのだろう。でも本当の馬鹿じゃないから、心のなかではいろいろと思うところがあったはずだ。
 
彼女のその心を爆発させる場所が音楽だったんだろうな、と、ライブを見るたびに思っている。
 
 
そのあどけない見た目からは想像もできないほど強い歌声を、ぜひ体感してほしい。
 
斉藤めいのツイッター:https://twitter.com/monbiri
斉藤めい公式サイト(ライブ情報更新中!):https://saitome.localinfo.jp/
 
 
 

 
↑無駄な動きが多すぎる

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